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喚び声

意識は闇を揺蕩う。
瘴気に身を浸し、“蠱”の与える苦痛を抱え、狂気に委ねたまま。
蝕むような闇は邪神の腕。
浅い眠りのような、世界を俯瞰するような、存在の輪郭を曖昧にするような。
それでいて、決して自己を損なわせない、加護と意思。
その中で、幽かに届く確かな声の主は、かつての仲間でも刈った命の怨嗟でもなく、ただ一人の『敵』

………煩ェ。
妙な呼び方してンじゃねェよ。

悪魔も蠱共も出て来ねェんなら、それまでだろォが。

煩ェな…
何度呼びゃァ気が済むンだ。

あァ、まだ呼んでやがンのか……
………ったく…馬鹿だな手前も…

幾刻、幾日、時の流れは朧で。
彼岸の程近く、半覚醒の意識に、幾度となく届く呼び声。
それは明確に向けられたモノだけでなく、交わされる言葉の中に混じって、あるいは声無き思考として。
加護の闇の中で静かに自我を取り戻しながら、気紛れに届く『声』を受け取る。
我知らず誰にも見られず、闇の中で浮かべた苦笑は、緑の眼に正気の色を宿して。
『ただ一人』の声を聞く。ただ一人の敵の声を。
最期の相手、正気を取り戻す切欠になった相手、壊れた頭が尚『覚えている』相手。

「助けてあるみゅん。」

───チｯ……仕方ねェな。

唐突に、明確に。
その『声』が、違う闇を介して加護の闇へと響いた。
それは、きっと本当に“助けを求めた”とは違ったのだろうけれど。
その意思がその言葉を紡いだ。
応えるように、浅い眠りから身を起こす。
曖昧に溶けた輪郭は、陽炎の如くその意思を形作り、再び現し世へと存在を示す。

「………よォ……呼んだろ……」

幾刻、幾日、朧だった時の流れは克明に。
亡霊は此岸に遊ぶ。
邪神の加護で身を保ち、“蠱”の与える苦痛を抑え、狂気を抱いたまま。
言葉を交わすのは、戦いながら『気が合う』と笑いあった相手。

「……ふむ。……ラディアの勝ち？」

「え、殴れるの！？これっ！！」
「……やんねーぞ。」
「じゃあ貸して！」

手前等…　何を好き勝手言ってやがンだ…
三度目負ける気はねェ。
貸すだのどうのと……、ヤろうってンなら、それは構わねェけどよ。

……考えるのは俺の役目じゃねェ…。
また何を面倒臭ェ話をしてやがンだ…

「……壊しちゃ、駄目だろ？」
───ったく、煩ェなァ。どうなろうとイイじゃねェかよ、玩具にもなりゃしねェ雑魚なんか…

退屈させんなよ。

幾刻、幾日、克明に流れ行く時は鮮やかに。
亡霊は現し世の地を踏み締める。
邪神の加護を力と変えて、“蠱”の支配を振り切って、狂気と正気の狭間に揺れながら。
拳と剣が擦過する、言葉なく確かに通じ合うもの、それは『半身』の如く。

「煩ェなァ…。馬鹿は手前だろ。」
「……その台詞、前も聞いた。」

繰り返すじゃれあい。
生ぬるい日常。
満足のいく決着の付かぬまま再戦を重ねながら、身を蝕む“蠱”の苦痛は消えずとも。
時折、僅かばかり取り戻す正気も。
戦いの最中に酔う狂気も。
すべては唯一人『ダートラディア』の呼び声から。

………悪くねェ、か。

『それは嘗て敵であった声。ただ一人、覚えていた声。気が合う、まるで半身のような存在』


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あとがき

al：………
Ｆ：…………
al：……………
Ｆ：………………なんか喋ってよぉぉぉぉ！
al：煩ェ。勝手にやっとけ。
Ｆ：冷たい。あんたはいつもＰＬに冷たい！可愛くない！
al：…………（ハ、と鼻で哂った。そして無言で還った）
Ｆ：うぅ。えーっと。お目汚し失礼いたしました。ここまでお付き合い頂きまして、真に有難う御座いました。

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