…恐るべき恥ずかし死に企画第二弾。
作成時期は、2010.上半期。バレットと前の恋人の話です。
今回は実際のログを加工(編集・加筆)したリプレイ作品です。
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悲恋歌の間奏
これは、ある夜の密林での出来事…
死霊に魅入られ闇の色を好んだ1人の優しいエルフが、初めて光を求めた時の…
そのエルフに恋焦がれ、彼の為なら光にも闇にも変じて見せる愚かな魔術士との…
じろじろと目を覗き込んで来る海原の瞳。
その無遠慮な視線を向けているのが彼でなければ、いったい何を返しただろう。
穏やかな―或いは正体の無い―笑みの下から、不釣合いに冷たい眼差しか、やる気無く窘める言葉か、親しい友には誤魔化しを?
ただ困った様に見詰め返した湖底の眼には、幾つもの感情や衝動が現れようとしては抑え込まれて、複雑な色が描き出される。
最後にふわりと浮かんだ寂寥、それすら笑みで取り繕って。
海原の持ち主は、その色を読み切れず。
諦めたように外された視線、追い縋る事も出来ずに、湖底は色を無くす。
他の友にするように、冗談にしてしまう事も出来ずに、下手な誤魔化しを重ねて行くのか。
食い下がらない理由は、まだ問いかけの主しか知らぬ事。
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「……あ、そういえばバレット。バイといえば最近ものすんごい気になってる事があんだけど。」
「気になってるって、何が?」
「最近バレットの目が変わった気がするんだよ。気のせいか?」
「俺の、目? 変わったって、どう?」
「いやー、何か悩んでるっつーか、そんな感じになったっていうか……」
「気のせいじゃないのー? 何でもないよ。」
「あ、やっぱ気のせいなのか…… ごめんな、変なこと言って……」
「別に。シード君が変な事を言い出すのは、いつもの事だからねぇ。」
「俺そんな変な事言ってるかなー? わかんねー……」
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それは幾つかの事件が小康状態になったある日。
穏やかな光差す午後、川辺に並んで腰を降ろした2人の青年。
1人は海原色の瞳のエルフ、1人は湖底色の眼の人間。
どこぞの王子のような白いスーツで身を包んだアレクと、濃紺のブレザーを纏ったバレットだ。
濃紺から青へ、青から蒼へ、蒼から青灰へ、青灰から灰白へ、灰白から白へ…
偶然とはいえ、髪や目の色も相俟って、見事なグラデーションカラーを構成している。
2人は…いや、先程まで一緒にいたエドですら、さっぱり気付いていなかったが。
強盗騒動の名残も最早何処か遠くへ去り、さらさらと流れる水音が耳に心地よく響くのみ。
「海に落とされて歌が響く光景とか、もう経験したくなかったのにさぁ……」
ハーフエルフの楽士に突き落とされた時の話を、少しばかり欝っぽく語るアレクシード。
“女性と、水と、歌”
それは彼にとって、この上なく不吉な3点セット。
運命を決した一戦は、成長を促しただけでなく、何やらトラウマ的なものも残したようだった。
「水難の相と女難の相が健在なんだね。…水辺と女性には気を付けた方が良いんじゃないの?」
対して聞いていたバレットは、クスクスと楽しそうに軽く笑い声を響かせて、余り役に立たない忠告を飛ばす。
乗り越えた苦難は、いっそ笑い飛ばしてしまえとばかりに。
それが彼の優しさなのか、実は本当に面白がっているのか、微妙に定かではないのが厄介な所だが…。
相変わらずの緩んだ笑みで、ゆるゆるとした動作で、つまり無駄にのんびりと、アレクシードが帯びた剣へと指をさす。
「まぁ、でも…。もう、同じような状況になったって、あんな不覚はとらないよ、きっと。良い剣も買ったし?」
「だと良いんだけどなぁ。」
「経験した事は血肉になるから、大丈夫だって。」
「まあ……これもあるし?」
どちらが年上なのやら、そんな突っ込みが入りそうな遣り取りも、もう毎度の事。
懐疑的に首を捻った想い人を元気付けるように、笑みを深めて見せる。
その目前で、アレクが懐から取り出したのは、いつかの呪い避けのヒトガタ。
それを持ち出されてしまうのには、さしもの厚顔も少しばかり照れたよう。
ヒトガタを手にした姿から視線を逸らし、それでもクスクスと笑っているのは、きっと誤魔化し含みで。
「……うん、まぁ。それに、仲間も居るしね。」
「そうそう、心強いよなぁー」
目を逸らしたまま頷いたバレットの内心を知ってか知らずか、アレクは不恰好な作りのヒトガタに頬擦りなんかしている。
嬉しそうなその声に、一瞬だけチラリと視線を戻すが、やはり直視する事は出来ない。
自分が手掛けたものを、そうも愛しそうに扱われては、変な期待を抱いてしまいそうで。
そして、それ以前に、どうしうようもなく照れ臭かったのだろう。
「ああ、そりゃ何より……」
「あ、そうだ。 バレットに聞きたかった本当の事、ここで訊くわ。」
「聞きたい事って……《この前の》は違ったんだ。 なに?」
「いや、いつかレーラがホームランゾーンだったかなんだかの話してたよな。
それの事について」
「ストライクゾーンの間違いだと思うよ」
アレクが改めて視線を向けて問いかけるが、バレットは視線を逸らしたまま。
弱弱しく、本題とは違う所へと突っ込みを飛ばしてみせる。
そんな僅かな抵抗は、流石に通用せずに、綺麗さっぱりスルーされて。
「……やっぱアレって冗談だったのか?」
「…………さて、ね?」
真っ直ぐに海原色に見詰めて問われ、取り繕う為の笑みも言葉も浮かんでは来なかった。
広場での事など、あれで誤魔化せたモノと思って居ただけに、ただ情けなく困惑の表情を返すことしか出来ず。
はっきり違うという訳でもなく、そうですと頷くわけでもなく。
湖底の眼に過日と同じ複雑な色を浮かべて、チラと視線をやるだけで、目を合わせようとしない。
はくぐらかそうとしているような。
それで居て、それでもと食い下がって来るのを期待しているのかも知れず。
結局アレクには、バレットが何を考えているのか、どんな答えが潜んでいるのか、わからない。
ならば――――
いっそ無理やりにでも視線を合わせてやろうと、バレットの顔へと手を伸ばす。
「 ……目逸らしてんじゃねーよ、こういう時だけ思春期かっつーの? 違うなら違うって言ってみろよ?」
そんな言葉と共に、彼の両手に捕らえられ。
いつもの子供染みた態度とは違う、外見年齢相応の真面目な顔付きと向き合わされて。
僅かに挑発含みなアレクの言葉、そのまま煽られて、『冗談なんかじゃない』と、言ってしまえれば楽だろうに。
「……望むように受け取ってくれたら、それで良いんだけどね。」
何処か冷静に怖気づいたままのバレットが吐いた台詞は、アレクの思惑通りに視線を交わしながらも、この期に及んでなお誤魔化しで。
伸ばされた手を拒む事もしない癖に、否定の言葉ひとつ満足に紡げない癖に。
どうしても、『そ、じょーだん』と、そう、全て無かった事にしてしまえる程、強くも成れずに。
またはぐらかす。どうして――――
「……恥ずかしい話、まだよく恋愛とか分かんなかったから、最初にバレットが拗ねた時に意味が分かんなかった。」
「いや、あれはまぁ…うん……大人気無さ過ぎて恥ずかしいです。」
拗ねた時。とか、持ち出されると本当に僅かだが頬に朱を掃いて、逃げ場を求めるように視線が彷徨う。
取り乱してしまえるほど、弱くもなれない。どこまでも中途半端な…
近くに居る為には認めてはいけないのだと、そう、思い込んでいる、愚かな魔術士。
情けないばかりの表情浮かべたまま、捕らえられたまま、紡がれる言葉を待つしか出来ず。
「でも、クエルダが死んだって聞いた時にな……急に怖くなって……もちろん皆死んだら嫌だけど、まずお前の顔が最初に浮かんで……そこで初めて分かったんだよ。その気持ちの意味が。」
ゆっくりと言葉を紡ぎながら、捕らえた顔を引き寄せようとするアレクの動きに、逆らう事もやはりせず。
改めて、頭ごと抱きしめるように回された腕の中で、バレットは静かに目を伏せる。
その腕を拒む理由など、ありはしないのだから。
それでも。今なら、まだ…逃がしてやれる――――
「…アレクシード。……友情と恋情を取り違えてないか? 本当に…それで後悔しないなら…俺は……」
「恋と友情を……? なら、訊いて良いか?」
渦巻く感情を抑えきれずに、それでも正すように問い掛ける声は、僅かに掠れて滲んだ。
バレットの声が苦しげな色を含んだのに、友人達からは鈍いと評されていたアレクも、流石に僅かながら気付いて。
先程から普段の稚気めいた雰囲気は形を潜めていたが、問い返す事の許可を求める声は、それにも増して“男”のもので。
小さく、囁くように。
静かな川辺に、潜めて紡ぐを邪魔立てするものもなく。
捕らえられたままの耳元に、甘く降る。
「毎日お前の事ばっか考えて、会いたくなって、ずっと一緒に居たいとさえ思うのって……恋じゃ、ないのか?」
ハッキリと答えてほしい――――
バレットの、銀髪と呼ぶには弾く光りの鈍い灰色髪を抱きしめながら、願う。
囁く声に。言葉に。
抑えていた“何か”が決壊する音を、聞いた気がした。
伏せて隠した湖底色の眼を上げて、真っ向から海原色の瞳と向かい合わせる。
もう、言い逃れも、誤魔化しも効かない。出来ない。
捕まえた――――
「それが恋じゃないとしたら、今すぐ頚でも括りたいね。
………好きだよ、シード君。ずっと好きだった。柄にもなく、守りたいと願うほど。」
キッパリと言い切ってから。
手を伸ばして、そっと、その白皙の頬へと触れる。
優しいエルフは、その手を受け入れて、穏やかに……本当に穏やかに笑って。
万感を込めて、噛み締めるように想いを告げれば、今まで頭を捕らえていたアレクの腕がふわりと下りて、バレットを強く抱きしめる。
「良かった、嫌われてなくって。俺も好きだよ、バレット……ごめんな、問い詰めるような事してさ。」
「嫌う訳ないだろ………ばぁか。」
愛しい腕に身を預け、彼が浮かべる笑みに、優しい海色に…今はもう何憚ることなく見惚れて。
それでも口から出る『ばか』と呼ばわる悪態は、本当に極僅かにしか向けない、親愛の表現。
「もー……本当に何だったの……お兄さん無駄に取り越し苦労ばっかじゃん…」
そのまま、力が抜けたようにグズグズと。
アレクの肩口に、懐くように頭を預けてしまって、ブツクサと口先で文句を重ねて。
頭を預けられたアレクは、文句垂れてる頭を撫でてやりながら『ああ、もしかしてバレットがよく頭を撫でてくれたのは、愛しさからだったのかな?』などと、何だか今更な事を実感していて。
「いや、だって変な反応しちまったから。だからもしかして嫌われたとか……思ってさ。」
「…嫌うなんて……ある意味予想してた反応だし……めっちゃ悲しかっただけですとも?」
「だぁってさぁ、いきなり言われてもそういうのが頭に無かったんだから仕方ねーだろ。」
柔らかく猫っ毛な灰色髪、撫でる手は心地よくて。
満足そうにクスクスと軽く笑いつつ、少しばかり意地の悪い事を言い出して。
そんな風に言われては、折角の青年らしい顔も、普段の子供っぽい調子に戻り。
精神年齢の逆転現象、主導権はフィフティ、それが2人らしいだなんて、本人達は別に考えてもいないのだろうけど。
「だから、言わなかったし、言わないつもりだったんだけどねぇ。」
困ったように眉を下げて、軽く溜め息を1つ。
「まあ結果的にはこうして両想いだったわけだし、許してくれって」
頭を撫でるのを止めて、一旦離れて、また目を合わせようと。
「まあね。…俺が、シード君を許さないなんて、きっと無いんだろうなぁ。」
それこそ惚れた弱み。海原色と湖底色が向かい合う。
バレットは、愛おしさ隠しもせずに心からの笑みを向け。
アレクもまた、満面の笑みを返す。幸せを感じながら。
ポンポンと言葉を投げ交わしながら、今までが嘘のように、互いの温もりを分け合って。
「あははははっ、なんて答えよう。皆に……」
「聞かれたら肯定でいーよもう」
「何だよ、せっかく人が勇気出したのに態度悪りぃなー。……ま、良いけどな……」
「ん。有り難う、ね?」
互いの関係を。悩むような言葉を言いながらも、あまり困っていなさそうな表情のアレクに、問い詰められて疲れてしまったのか、バレットは何だか投げやりに返して。
文句を言いながらも、結局は許してしまう。
そんなアレクに目を細めて嬉しそうな笑みを向け、礼の言葉は、その勇気にも許してくれるのにも、両方に。
「……ところで、さ」
と、そんな言葉と共に、一気にアレクの顔が青褪める。
「あまりに幸せすぎて気付かなかったんだけど……俺、そろそろ仕事行かなきゃ……」
「やれやれだ。とにかく、一度帰るわ。 また、ね?」
掠め取るように、彼の頬へ口付けでも落としてやろうかと思うけれど。
どうも、そんな暇も無さそうだ。
大人しく身を離しつつ、バレットは内心で溜息を1つ。
ようやく想いが通じ合って、甘やかな空気がと思えば、これかと。
「ごめんなバレット! もっと一緒にいたいけど……やべええええええええ 」
その焦り振りを見るだに、もう遅刻かもしれない。
慌てて川縁を走り出すアレクの後姿へ、ピラピラと手を振っていつものように見送って。
今度は実際に溜め息を1つ落とす。
何だか、最近溜め息を吐いてばかりだけれど、今日のこればかりは悪い気もしない。
…そんな事を考えながら、ゆったりとした足取りで、バレットも街へと向けて歩き出す。
色違いの青を纏った2人が想いを通わせた時の…
優しいエルフと愚かな魔術士の、これが顛末。
近い将来重ねた道が別たれると知らぬ時の、幸せなひと時。
あとがき
F:あー長かった。
B:……………もう死にたい…(赤面)
F:これは、元は某PLさまからのリクエストだったんですが、折角倉庫があるので晒してみる事にしました。
バレットの前の恋人さんとの告白シーン再現ですね。彼はこの後一月もしない内に行方知れずになってしまうんですがー…
B:古い恋話掘り返されるのって、地味にシンドイんだけど、ねぇ、フローズ。
F:(無視) 色々と悲恋一直線だったし、まともに恋人同士っぽい会話したのってこの日だけだったはず。だってこの後と行方不明発覚時点までの間に、一度(それも短時間)しか会ってないし。
B:そろそろ勘弁してください… (涙ながらに強制終了)
メインPC:バレット・リング
重篤なバレットおにーさん中毒者。
ユーフェミア&レオポルドorエレナ&ディリーを復帰させたい。
悪役PCをやりたい病・新PCを入れたい病・イベントを起こしたい病に掛かっている。
ペティット参加者様に限り「リンクフリー」&「うちの子ご自由にお使い下さい」