資料館に上げたもののロング版

“秘めたる名の女神”と称される。あるいは端的に“狂月”とも。
地上に魂を縛られた小さき神。

月と戦と報復（応報）を司り、狂気と迂遠と瘴気を帯びて、地下と胎内と闇を支配する。
空に輝く月そのものではなく、象徴としての月、ヒトの身の内にある月、狂気の引き金としての満月、“ルナティック”
諍いの種を撒き、報復せよと叫び鼓舞し、また報復に対する報復を呼び、終わりなき戦いを嘉納するもの。
“狂月”が自らの信奉者の内から選び、篤く加護を与えた者は、その魂を地上に縛られ、死後も亡霊として彷徨う事になる。
“狂月”の女神の本質として最も重大なのは、報復を願う者の支援者として語られている『応報を与える性質』と、女神と同じように『魂を地上に繋ぎ留める力』である。
なにやら腰が軽く面白がりで観劇趣味の女神であり、時折り御遣いや分霊がそこいらをほっつき歩いている事がある。
また、本山では女神本体がうろうろしている、地上顕現中の会いに行ける女神でもある。

その教義は、主に“復讐者”としての姿に集約する。
「片目を潰されたら両耳と舌を潰し返せ」とでも言うような、３倍返し以上の報復を奨励している。
治安の良く無い地域や戦乱の時代においては、ある種「弱者の代弁者」のようにも語られ、多くの信仰を集めた事も歴史上に置いて決して少ないとは言い得ないだろう。
反して、治安の良い地域や平和な治世では、血腥く病的で恐ろしい邪神として忌み嫌われ、その勢力は縮小し、過激な教義などから排斥される傾向が強い。
戦場等の苛烈な環境においては、「戦士（狂戦士）の庇護者」として一定数の信者を集め続け、規模の面では小さくとも潰れる事もない、といった様子。
堂々と神殿を構えられないような場所では、地母神のものに偽装した祠が構えられている。

聖印
報復と不和を象徴するように「互いに刃を向けあう２振りの剣」を意匠としたもの。
それも、片方の剣は刃が曲がりくねって絡み付くような姿をした蛇のような剣である。
信者はこのモチーフを刻んだ装飾品を身に付けている事が多く、熱心な者の場合、刺青にしている場合も。
また、実際に特徴的な蛇剣の使い手であったりする場合もある。

象徴とする花は、アザミとシロツメクサ。赤の彼岸花。
御遣いは、胸に白い短剣模様の入った黒い蛇。
分霊は、黒髪に月の金色の瞳の女性の姿をとる。年齢はまちまちだが常に蛇短剣を帯びている。

アザミ　「厳格」「復讐」「満足」
シロツメクサ　「私のものになって」「約束」「復讐」
彼岸花　「情熱」「想うはあなた一人」「また会う日を楽しみに」
（曼珠沙華＝赤い花・天上の花）



―――と、語られて来た神である、が。
本来は合祀されて然るべき男神がいるらしいと、近年になって極一部の宗教家の間で新説が囁かれ始めている。
“狂月”の女神の本質として最も重大なのは、報復を願う者の支援者として語られている『応報を与えるという性質』と、『魂を地上に繋ぎ留める力』である。
それらは、もし正しく用いられた場合、……豊穣を与え死を遠ざける命に満ちた月。
では、何故かの“狂月”は瘴気を呼び豊穣を与える事が無くなってしまっているのか。
その疑問の答えは、片割れたるべきと目されている男神が、解き明かしてくれる事だろう。
男神の名は、あるいは端的に“静月”と称される。
悪しきモノや障りを払い、清め鎮め、休息の為の聖なる闇を表す。
こちらも空に輝く月そのものではなく、象徴としての月であり、ヒトの身の内にある新月、静心と休息を与える。
平時であれば極めて穏やかで温厚なのだが、祓魔・退魔の支援者或いは執行者としては、鋭利な程の静けさと清浄さが顕著になり、故に非情とも思えるほどの冷徹さを帯びる。
“狂月”が定着であるならば、“静月”は解放の気質とも語られ、性質故か何事にも気ままで奔放、好奇心も強く、行動範囲の広さにおいては際限がない。
長時間肉体を駆使することは出来ないため、殆どの時間は霊体のみの状態で気ままに遊び歩いている。好色、との噂もあり。

かの月神２柱を共に奉ったならば、古の姿を取り戻すのかも知れない。

報復と不和を象徴すると伝えられている「互いに刃を向けあう２振りの剣」は、『祓いの闇月』を象徴する桜花刀と『応報の輝月』を象徴する蛇剣の意匠であ り、『うねり絡み着く蛇剣が桜花刀の鞘となり、桜花刀に絡み着く間は蛇剣もまた何も傷付ける事はない。』と読み解き、向けあうのではなく刃を重ね合わせた 形こそ正しい夫婦神の意匠であるとする説も浮上している。

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