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フローズさんちのPC事情
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バレット、アルミュール、ダートラディア。
3人の過ごした、「あの日」と、それからの一年のこと。



*****

前の大会、敗けやがったからな…。
そんな様じゃァ、今回だってどうだか知れねェ。

これ以上、どうなっちまうってンだか……
柄にもねェ事、考えさせンじゃねェ。ったく。

いっそ、大人しくさせちまおうか、とも思ったンだがな。
……それでも、“それ”が手前なンだろ。
なら、俺は見届けてやる。止めやしねェよ。


長く続いた大会、“showdown”の決勝戦。
戦いに惹かれる性質の騎士、アルミュールが観戦に行かぬ筈が無い。
控え室までは、ダートラディアの傍に在った。
特に言葉を交わす事はなくとも、舞台に上がるまでを見送る。


負けて帰って来るパターンなンざ、飽き飽きしてンだ。
偶には、祝わせろよ。なァ、ダートラディア。

肝心な勝負に負け癖付けてンじゃねェぞ。


武舞台へと送り出せば、その後は観客席へと合流した。
最前列には、銀灰色の魔術士。バレット。
その傍らへ、実体を持たぬまま、可視にもならぬままで、落ち着く。
それでも、同じ女神に仕え、魔法や精霊を視る能力に優れた魔術士は、騎士の存在を感じて居るようだった。
時折向けられる言葉に返すでもなく、騎士はただ戦いの行方を見詰める。

己の貸した盾を呼び出すのを見て、少し表情を険しくさせたか。
女神への祈りを呟く魔術士に、視線をやる事は終ぞ無かった。
その盾も、炎の熱に負ける。
そして、焼け付いた金属と皮膚を引き剥がし、ダートラディアの吐いた言葉は。

『オレは愛する男に手料理食わせたくてここに居るんだよ。 』

ギリ、と。少しばかり歯を噛むような。
そんな音はしない、肉体はないのだから、所作だけだ。

「ラディアちゃん……   負けないで……」 

弱く震えた声に、少しばかり眉根が寄った。
場内へと身を乗り出すようにするのに並び、その細い肩へと手を掛ける。
無意識に握るように掛けた力は、実体があれば肩を痛めさせてしまったかも知れなかった。


アイツが、そンな程度で終わって堪るか。


言葉にせずとも、深くシンクロする様に、魔術士の唇が戦慄く。
騎士と魔術士を繋ぐのは、狂月の神気だけでなく、今まさに雌雄決さんとするダートラディアへ向けた思い。


そう、そうじゃない。
負けを嫌う程度で終わって良い筈が無い。


息を吸う、深く。
腹の底から体幹を通し、魔術士特有の良く通る響きと、騎士の力強さを共にして。


「勝ちやがれ!!」
(克ちやがれ!!



場内へ届けと声を限りに叫ぶ言葉は、甘いテナーに重なって、深く唸るシーグリーンの色を帯びる。
それは一瞬の幻覚のような。
実体を持った訳でもなく、憑依した訳でもない、ただ一瞬。
あまりに強く折り重なる2者の意志が、物質世界の理を越えた。


*****


それは、あまりにも、あっけなく。
騎士も魔術士も、ダートラディアが崩れて行く姿を何時までも見ている事は無かった。
それぞれに、ぐずぐずの塊のようになって転がる傍らへと、可能な限りの速度で駆けて行く。

最も深い地の底。
そのような所から、這い寄ってくる闇。
それは、ダートラディアが属する一族の女神。
死した我が子の魂を呑み下さんとする、地母神の胎内。
その闇を防ぎ止めるように、月光纏う騎士の姿があった。

倒れたダートラディアへと沿うように、像を結する事無く其処へ。
ただ、その魂を地中最も深き所へではなく、違う所へと連れて行くために。
現実では、半狂乱の魔術士が、月の邪女神の加護を願って、ダートラディアの魂を無理矢理に引き留める。

「どうか、信徒を、騎士を、月の仔を――」

そう、願い叫ぶ悲痛な声を、騎士も傍らで聞いていた。
このまま共に死んでしまいそうな魔術士をも、己が魂で支えんと、願いが齎す効果を受け入れる。


あァ、……なンて声出してやがンだ。
その日が来たら、同じように泣くんだろォが。
無理に繋いで、手前はどうなる。
誓いを違えて、女神の人形か?
それとも、このまま潰えて死ぬか。
……冗談じゃねェ。
ソレを、俺が許してイイ訳がねェんだよ。

この魂、繋ぐってンなら、鎖にしようが重石だろうが好きにしやがれ。
それで手前が支えられンなら、アイツに文句は言わせねェ。

共倒れなンざ、百も承知。
なァ、女神。見てンだろ。やってのけてやろうじゃねェか。
バレットは俺が死なせねェ、ダートラディアも連れて行かせやしねェ。
『アルミュール』の名に懸けて、レスタンクールの血に懸けて、アンタの騎士の証に懸けて。

―――だから、なァ。居てやるから、泣くな。


邪女神の加護が、三者の魂を繋ぐ。
術者の意図したのは、二者の命を繋ぐまで。
それを越え、三者それぞれの魂を繋ぎ縛す鎖と成したのは、邪女神のほんの小さな悪戯心。


*****


試合のあったその日、カスパール邸を訪れる者がある。
一流の魔機工師であり自称マルチアーティストの、千歳緑の仙術者。
その華中風の男は、生命維持装置を筆頭に幾つもの機材や資材を伴い、紫煙と共にやって来た。
己を呼び付けた老軍師と顔を会わすなり、長い煙管をクルリと回して、ニヤニヤと軽薄に妖しく笑む。

「よぉ、軍師殿。俺ごとコイツが入用だって?」

*****

魔術的・空調的・物理的に安定した地下空間。
あらゆる害の進入を許さぬ結界を敷いた中に、魔法・錬金・機工といくつもの技術を組み合わせた生命維持装置に繋がれ、同様の造りの救命医療ポッドへ寝かされたダートラディアの姿がある。
そのダートラディアの傍ら、寝食を忘れて取り縋ったまま動かなくなってしまった魔術士がいる。

騎士は、この場にはいない。
容態が安定しない限り、闇へと引き込む母神は去らない。
未だ霊の次元での静かな死闘は続いていた。

いかにマイナーと言えど神たるもの、普通には一介の人の霊などが相手取れるものではない。
付与魔術に特化した老練のエルフと、魂や精神を同調させ干渉する力を持った魔導人形、仙術に熟達した男に叶う限りの支援を受け、御使いの黒蛇の協力を得て尚足らぬ。
更には月の邪女神の多大な加護を一身に背負い、しかし依然として無事に済む保障などない。


それがどうした。
相手が神でも、退く気はねェ。
理性だろォが、本能だろォが、邪魔になるなら捨ててやる。


いくら強化を受けても、全ては霊の次元での出来事。
送り出す事が出来るだけで、共に戦場に立てる者は居ない。
ただ一人で相対した母なる神の、母胎の如き闇は、抵抗などという意志が起こらぬような、安らぎと回帰の魅力を備えていた。
纏わりつくように、誘うように、闇が取り巻いていく。


あァ、このまま何もかも忘れりゃァ、楽かもしれねェな。
剣が重い。……だからどォした。
まだ何も果たしちゃ居ねェんだ。
このまま眠ってやる訳にゃ行かねェ。


霊体を消し飛ばされ輪郭が解けそうになろうとも、胸を穿たれようとも、闇に呑まれようとも、抗う意志が揺らぐ事はなかった。

その盾をして闇を押し留め、その身をして淵との境となり、その剣をして闇に月光を差す。
その姿は、正に勇猛たる神の騎士――邪神の剣。


泣いてンだよ。……手前も女神なら聞こえてンだろ。
こんな終わり方なンざ、誰も望んじゃいねェ。
先まで誓った以上は――

「――手前ェに返せやしねェんだよ。
イイから、とっとと諦めやがれ!」



獣の如く、咆えた。
その裂帛の気合を衝撃波と変えて、取り巻く闇を吹き散らす。

神に刃向かった騎士は、その霊体を消滅させられながらも、失った部分を月の邪女神の力によって埋められ、剣を振るい続ける。
そうして埋められた分の肌は、闇の母神の影響によって黒く染まった。

そのような時間が、およそ一月続いた。

*****

その一月のはじめのうち。
泣き疲れ意識を失うようにして眠っていた魔術士の胸が、小さく内側から裂けた。
その傷は、以前に入れ込んだ相手から受けた剣の傷であり、母神と鬩ぎ合う騎士がたった今受けた傷であり、月光に縛され繋がれた3つの魂が訴える“痛み”の具現だった。

*****

やがて、闇が魂を引いて行こうとする動きが鈍くなる。
肉体の修復が進むにつれて、隙あらばと行われていた干渉の回数が減って行った。
しかし、未だ肉体と魂の定着が不完全な内は遠くへ去る事は無く、闇はただ其処にあり、見ている。
待っている。

闇が完全に去って行くまで、騎士もまた其処にあり続けた。

*****

母神の闇が、去った。
それは、ダートラディアの肉体が癒え、精神と魂との繋がりを取り戻したと言う事。
随分と黒く染まってしまった騎士は、闇が全て去って行くのを見送ると、輪郭を崩していった。
如何に加護を背負った強固な魂と言えど、受けたダメージは深刻なもの。
邪女神の下へと身を委ね、暫しの休息と回復を。

幸いなるは、月の邪女神と闇の母神では、信者の数や信仰の規模において月の邪女神が優っていたこと。
そして、概念的神格である母神よりも、人格的神格であり地上に顕現し続けている邪女神の方が、単純に“強かった”こと。
それ故に、騎士は未だこの世界に在った。

時を同じくして、現実でも動きがある。
生命維持装置やポッドの換装、必要な設備の増設。
そして、死にそうな顔をして傍らから動かなかった魔術士が、漸く少しだけ地下室から出るようになった。
その身に癒えぬ傷と狂気を色濃く宿したまま。

*****

また暫く時が流れ、蝉の声が聞こえ始める頃。
眠り続けたダートラディアも、ほんの少しの目覚めと長い眠りを繰り返しながら、回復していった。
口を利く体力さえないような目覚めでも、魔術士は目に涙を溜め喜びも露わに手を取り、邪女神の下で眠っていた騎士も傍らに戻る。

少しばかり姿を変えた騎士が、万感込めて寝顔の鼻を摘んだ。
多分、とても痛い。

*****

もう一月も経てば、起きている時間も長くなった。
漸くにしっかりと声を出せるようになったダートラディアが、病床の傍らにいる2人に向かって、話しかける。

「ありがとう」

「――っ おかえり、ラディアちゃん」

「……阿呆が」

一瞬息を詰まらせて、笑みを浮かべながら、ぽろぽろと涙を零す。
やや呆れたように小さく息を吐いて、目を眇めながら、それでも口の端を上げて。
2人共それぞれに、安堵を滲ませた。

「人の頑張りを、阿呆はねーだろ、 」

涙を拭おうとして上がらぬ腕。
文句を返そうとして、上手く回らぬような口。
それでも、2人共何を言おうとしたのかは解るようだった。

「あ゛ァ? 手前ェ、最後のアレはねェだろ。魔力の通った物に頼ってンじゃねェよ」

「アルミュール、まだ休ませてあげて」

言葉尻に「ハッ、」と鋭く吐きだすように哂えば、横合いから窘められて。
ダートラディアは、そんな遣り取りをしている内にも体力が尽きたのか、また意識を失うように眠りに落ちていた。

*****

碌に動けないダートラディアに、べたべたと懐くバレットを退ける。
……ったく、毎度怪我人に負担かけてンじゃねェよ。

ベッド脇に椅子をやって、ひとまず片膝へ乗せた。
コイツはコイツで治っちゃいねェからな……。

空いているもう片手はダートラディアへと伸ばし、今日はどうだと問いながら、頬に一度手の甲で撫で触れる。

ものも言わずに泣かれた。

膝を降りるバレットから手を放してやりながら、眉間に皺が出来るのはいつもの事だ。
……まァ、横に付く程度なら、構わねェか。
黒い髪を撫でる手を、好きにさせておいてやる。

「どんな顔で起きたらいいか分からなかった、」

馬鹿だ。
溜息が零れるのも、いつもの事だ。
泣き言は、聞いてやる気はねェぞ。

「いつも通りのアホ面晒してりゃイイじゃねェか」

「アホ面って……」

酷ェ面しやがって。
泣くか笑うかどっちかにしとけよ。
呆れながら、バレットに飽きずに弄られている黒髪に、手を差し入れる。
撫でてやりゃァ、機嫌がイイんだろ。
グジグジ言わねェで、大人しくして、さっさと良くなれよ。

*****

空の雲が鰯のようになった頃。
魔術士は治る様子もなく、仙術者は予想外の足止めを食っていた。
一方で、そろそろと重傷患者の域を脱したダートラディアが、地下から二階病室へと移される。
一度壊れ、長い寝たきりで萎えた身体は、見る影もなく衰えている。
まずは日常生活に支障なくなるまで院内でのリハビリ、……なのだが。


なンだって、こうも邪魔してくれンだかなァ。
………解らなかァ、ねェけどよ。
オイ待て腹の上に乗ってやるな潰れる。

困ったように見上げて来たダートラディアと目が合った。

――ったく、どいつもこいつも仕方ねェな。

「………、行くぞ」

バレットを抱き上げ、ダートラディアの手を引き、部屋を出て階段を降りる。

じたばたとすンな面倒臭ェ。
芝生に下ろしてやると、膨れた面だが大人しくなった。

動ける様になったら鍛え直しだ。

そう告げれば、また泣かれた。
手前ェの涙腺どうなってンだ。

横から上着の裾を掴まれる。

「俺も一緒に行く」

「手前、まだ治ってねェだろうが」

「使えるようにして貰うから!」

「そういう問題じゃねェよ」

「行くったら行く、連れてってくれないなら一人で行く」

「………オイ、」

「置いていかないで……」

「……あ゛ー………」

*****

冬の気配が濃くなる頃。
月の邪女神の分霊、黒髪の乙女が訪れた。

老軍師と仙術者と黒髪の乙女、そこに呼び出されたダートラディアを加えて、ティールームのテーブルを囲む。
騎士と魔術士は、この席への同行は遠慮させられていた。
ダートラディアが眠っている間、何が起きていたのか、騎士の身に起きた変化の理由、塞がらぬ魔術士の胸の傷が何であるか、そんな諸々を聞かせる為の席。

説明会が終わるのを待つ間、魔術士はベッドへごろつきながら、騎士へ懐いている。
騎士が魔術士を適当にあやしてやりながら待っていれば、部屋へ戻って来たダートラディアが何も言わず隣へと腰を落ち着け、魔術士の銀灰髪を撫でた。


懐いてる方はいつも通りだが……
手前は、違うな。何を考えてる。
目覚めてからこっち、随分と大人しくなったじゃねェか。
何を聞かされたンだか知らなねェが、しおらしくなりやがって。
まァ、……良いンじゃねェのか。

*****

その晩のこと。

「何があったか、ちゃんと聞いてきた」

黒に染まってしまった手を取りながら、ぽつりと話しだす。

「そォか……  そう大仰な話でもねェと思うンだがな」

「どこがだ」

手を取らせたまま軽く肩を聳やかす騎士に対し、呆れるような、吐息混じりの苦笑をにじませて。

「過ぎた事だろ。どの道、いつになろうと、やり合う事に変わりはねェ」

「もーちょっと、自分で何とかする心算だった」

両眼を閉じ、至極当然当のように言い放つ騎士に、深々と溜息を吐く。
そのまま、肩口に顔を埋めた。
懐いて来るダートラディアにしたいようにさせたまま、騎士は特に何を言うでも無い。
親愛を示すような行為を向けるでもなく、けれど面倒がるでもなく、何をも受け入れるように静かに在った。
2人の上に沈黙が降りる。

「ありがとう。      あいしてる。」

*****

魔術士の治療を根気よく続けながら、ダートラディアを連れて過激なリハビリへ出かける。
楽しそうに付き合ってくれる黒兎娘と、結局なんのかんのでお守り役を降りられない仙術者、それに時々は素材目当ての呪殺剣士が加わって、回廊廻りは妙に楽天的な賑やかしさ。
そんな日々が続いていた。


これはこれで、そう悪くもねェ。


大人しく張り付いている事が多くなったダートラディアに、黒く染まった手を伸べて緩く撫でてやれば、頭を押し付けるように懐いてくる。


猫だ。
……後は、アイツがな。
いつまで治らねェ心算なンだ、どうしてやりゃァ好い。
理由だけなら、解らなくはねェ。
手前もそうなンだろうがな。


それでも、ダートラディアが一人で街に出るようになったからか、釣られるように魔術士も少しづつ外へと出たがるようになった。

*****

春が訪れ、リハビリと言いつつその域を越えた強化訓練は、回廊廻りではなく、対人戦に形を変えた。

黒兎娘が飽きもせず相手を務めている。
魔術士の様子は、あまり変わらない。

それでも、一人歩きをさせても問題ない程度に落ち着いている。

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プロフィール
HN:フローズ(フローズヴィトニル)
メインPC:バレット・リング
重篤なバレットおにーさん中毒者。
ユーフェミア&レオポルドorエレナ&ディリーを復帰させたい。
悪役PCをやりたい病・新PCを入れたい病・イベントを起こしたい病に掛かっている。
ペティット参加者様に限り「リンクフリー」&「うちの子ご自由にお使い下さい」
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